2016年05月29日

[図書]宮中音楽断絶前の詳細な記録 … 「中国・朝鮮音楽紀行」

 以前図書館で偶然見かけて借りた本のことを思い出しましたので,その本について書こうと思います.

●中国・朝鮮音楽紀行(東洋音楽全書〔十一〕)
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 この本のうち,私は興味のある朝鮮に関する部分だけを読みました.著者の田辺尚雄氏が大正十(1921)年に朝鮮半島に赴き,主に雅楽について調査した詳細な記録です.当時,朝鮮はすでに日本の植民支配下でしたが,朝鮮時代から続く雅楽団がまだ残っていました.しかし,予算不足で存亡の危機に瀕していることを知った著者が当地に行き,各楽器の音域や演奏時の配置,音律など専門的な調査を行っています.

 この本がどんな内容だったのかもう記憶があいまいですが,창경원(チャンギョンウォン,昌慶苑)と呼ばれていた창경궁(チャンギョングン,昌慶宮)内に当時は動物園があり,予算不足で雅楽団か動物園のどちらかを廃止しようという案が出た際,動物園は一般市民のためになるが雅楽団はそうではないとの総督府の役人の判断で,雅楽団のほうが廃止されることになった,といったことが書いてあったように思います.

 調査内容が専門的で詳細なものだった上に,当時としては珍しく演奏中の動画撮影まで行ったようです.そのフィルムは著者が保持していましたが,朝鮮半島の出身者から帯出を懇願されて貸し出したそうです.ところがその後,朝鮮戦争が勃発したためフィルムは行方知れずになり,大変残念に思っている,といった逸話も載っていたように思います.

 著者は雅楽の調査で京城(現在のソウル)を訪れただけでなく平壌にも足を伸ばし,公立の妓生(キーセン)学校を訪問したり,舟遊びを楽しんだりしたようです.妓生学校の女学生は書道にも優れていて,お手本どおりに書くことには長けていたようですが,お手本にはないものを自由に書かせてみるとそれほど上手ではなかった,といったことも記されていたと思います.このような記述は,当時の朝鮮半島の様子を垣間見る旅行記としても楽しめます.

 ひとつ残念なことに,著者は庶民的な音楽には興味がなかったようで,何かの公演があるので行かないかとの誘いには乗らなかった,との記述があったと記憶しています.多分판소리(パンソリ)だったのではと私は思うのですが,著者がこの公演を見て何かを書き残していれば,それも現在では大変貴重な資料になっていたかも知れません.

 雅楽団が実際に廃止されたと書いてあったかどうか,具体的なことは思い出せません….現在,韓国ではこのような伝統音楽の流れをくむものは,국악(クガク,国楽)という名前で親しまれています.


#한국(韓国)
#조선(朝鮮)
#전통음악(伝統音楽)
posted by kajiritate webmaster at 22:44| Comment(0) | 日記