2016年04月07日

[韓国語]메밀? 모밀?

 韓国の小説を一文ずつよく見てみると,同じ小説でも本によって微妙に表現が違うことがあります.たとえば,황순원(ファン・スヌォン,黄順元)の「소나기(ソナギ)」で,少年が牛に乗って遊んでいると農夫が『소나기가 올라(夕立(にわか雨)が来るぞ)』という場面が『소‘내’기가 올라』となっている本もあります.

 どちらが原稿どおりなのか私にはよく分かりません….現行の標準語では「소나기」が正しい表記ですので,元は「소내기」とあったのを出版社によっては修正しているのかもしれませんが,もしそうだとしても,農夫の言ったせりふの部分まで直してしまっていいのかという疑問が残ります…

 戦前の日本の小説でも,歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに直したり,今ではあまり使われない難しい漢字を他の漢字や仮名で表記するよう改めたりといったことがされていますので,誰もが知っている夏目漱石や森鷗外の作品も原文とは雰囲気がかなり違うかもしれません.ただしこのような修正は,なるべく原文を損なわないよう必要最低限に留めているはずです.

 이효석(イ・ヒョソク,李孝石)の「메밀꽃 필 무렵」の場合,オリジナルの小説名は「‘모’밀꽃 필 무렵」です.蕎麦の標準語は「메밀」で,「모밀」という表記は認められていませんので,모밀꽃を메밀꽃に改めたのだと思います.今では「메밀꽃 필 무렵」のほうが一般的ですが,標準語ではないからとタイトルを変えてしまってもいいのか,こちらも疑問です….

 ちなみに,소내기は소나기の‘나’の母音‘ㅏ’が後ろの‘기’の母音‘ㅣ’の影響で‘ㅐ’になったもので,このような現象を「‘ㅣ’역행동화(i逆行同化)」といい,話し言葉では他の単語でもよく耳にする現象ですが,韓国の標準語ではi逆行同化は基本的に認められていません.また,메밀/모밀はどちらも使われていて,飲食店のメニューなどに「모밀국수(そば)」と書いてあることもありますが,複数標準語とは認められていません.

 原文と表記が多少違っていても,小説ならその作品自体の持ち味にはそれほど大きな影響はないかもしれませんが,詩など短文の作品の場合,改行位置などの些細な違いでも作者の表現したかったことが変質してしまうこともあると思います.私が知らないだけで,どこかに種々の文学作品の原文を忠実に写した底本があるのかもしれませんが,もし存在しないのならそこから始めてなるべく原文そのままの文学作品に触れられるようになればと思います.


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posted by kajiritate webmaster at 22:25| Comment(0) | 日記